紺碧の海 金色の砂漠
レイの背後に控えていたサトウ補佐官も青褪めている。一方、ミシュアルの側近は若い者が多く、よほど彼に忠誠を誓っているのか一歩も引かない構えだ。


(四歳も年下の人間に説教をされるとは……)


レイは軽く頭を振り、『君の言うとおりだ。失言だった。忘れてくれ』そう言ってミシュアルに手を差し出した。

王国を背負って四年、澱みかけたレイの心に王族の誇りを呼び覚ましてくれたのは、砂漠の勇者であった。


この一件があったからこそ、その二年後、レイはミシュアルに賭けたのだ。


開けていた窓とカーテンを閉めながら、レイは八年前のことを思い出していた。


ミシュアルは当時の王太子殺害容疑を掛けられ、砂漠で逃亡生活を余儀なくされた。アラビア諸国をはじめ、彼の母親の母国・日本も国王側につく。

アズウォルドにもそれとなく日本から打診がきたが、レイはそれを保留にした。そして個人資産で密かに彼を支援したのである。

それにより、ミシュアルは軍関係者を味方につけ空軍に入隊、国王の刺客を振り切ることに成功。彼がどこかレイに恩義を感じる素振りなのは、このときのことが原因だった。 


とはいえ、レイもミシュアルに対する友情や感傷だけで動いた訳ではない。

順当に国益が上がり始めたアズウォルドにとって、軍備補強が最優先の課題となりつつあった。専守防衛が基本とはいえ、守る力があることを対外的に示す必要がある。

後に、クアルン海・空軍をアズウォルド近海に招き、大々的に合同演習を行った。支払った代価以上の効果を得たと信じている。


(今回も、あの男ならきっと……)


デスクに置かれた資料に目を落とし、レイは胸の中で呟く。

直後――コンコンコン、と小さなノックが彼の耳に聞こえた。


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