紺碧の海 金色の砂漠
「誰だ?」


深夜零時近く、王宮内の国王執務室を訪れる人間など決まっている。だがあえて、レイは誰何《すいか》した。


「私です。入ってもいいかしら?」


予想どおりティナであった。


「ああ、どうぞ」


ため息を隠し、レイは妻を招き入れた。


腰まであるブロンドを揺らし、ティナは二年前と変わらぬ天使のような笑顔を見せる。涼しげな光沢を放つシルクのナイトガウンを羽織り、素足にサンダルというラフなスタイルだ。ガウンの下はおそらく、スリップタイプのネグリジェ一枚だろう。


「お仕事中ごめんなさい。忙しいのはわかってるの……でも」


レイは早口で話し始めるティナに微笑みかけ、指先で口を閉じるようなジェスチャーを見せ、手招きした。

ティナは黙ってレイの傍に駆け寄る。

窓枠に腰掛けたまま、彼はティナを抱き寄せ、優しく口づけた。しだいに強く唇を押し付け合う。そして唇が離れた瞬間、彼女の髪に顔を埋めた。太陽の香りがレイの鼻腔をくすぐる。 


「あの……明日からの公務ですけど、もし私がお邪魔なら」

「シーク・ミシュアルにはちゃんと話しておいた。我が国の王妃を粗略に扱うような真似は、私がさせない。公務は予定どおりだ」


レイの言葉にティナはふわっと微笑む。


< 42 / 243 >

この作品をシェア

pagetop