愛を叫んで地に堕ちて〈全イラスト41枚つき恋愛ホラー〉
 しかし、記憶の中に居る茂吉は、勇斗に向かって何もしゃべることはない。

 手を伸ばしても掴むことは出来ない過去の幻影だった。

 容赦のない嫌悪と憎悪の目を向けられて。

 傷ついた真珠と一緒に居ることに、いたたまれなくなった勇斗は、逃げるように、部屋から飛び出した。


 途端に。


 耳につくのは、蝉の声。


 演劇部の合宿所に使っている別荘を取り囲む森の中から、何種類もの蝉が、勇斗に向かって鳴いて、鳴く。

 その、鳴き声に勇斗の記憶が刺激され。

 ぐらり、と回るめまいと一緒に過去の記憶が、勇斗に向かって押し寄せて来た。

 その、ほとんどが、茂吉と。

 彼に寄り添う着物姿の、真珠の記憶だ。

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