本気の恋の始め方

るうくんにこれ以上申し訳なさそうな顔をされたら、本当に泣いてしまいそうだった。

だけどここで泣けるわけがない。


るうくんは大事な顧客、芙蓉堂の社員で、今後も顔を会わせるお客様なんだから。


涙のバカッ、引っ込め!



奥歯をかんで立ち上がる。


軽く一礼して、るうくんの顔を見ないまま、テーブルを離れる。



楽しげな声が響くティールーム。

早足で歩いているのにすごく出口が遠い。



「潤ッ……」


低い、押し殺した声で、るうくんが私の名前を呼び、あとからついてくる気配がした。



やだ!

早く、早く、早く!


ティールームを出て、一番近くで人目がないのは資料室だ。


一直線にそこに向かい、ドアに手をかけて体を中に滑り込ませる。



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