本気の恋の始め方
目の前で一輪の花が咲いた瞬間を見たような、そんな感覚。
一瞬なにが起こったのかわからなかった。
彼が演奏しているのが、バッハの無伴奏だって気づくのに数秒時間がかかって。
そうだとわかったそれからは、まるで泉から清い水があふれるような、音の洪水に全身を包まれる。
どぼん、と、その泉の中に突き落とされて、溺れて
だけどそれが苦しくない
いつまでもその清らかな水の中に浸っていたい――。
途中から、くるくる巻き毛の男の子のヴァイオリンが加わり、叙情豊かに音を重ねる。
「きれい……」
「クラシックもいいんですが、彼らの楽しみはこれからですよ」
と、千野君が唇の端を持ち上げて微笑む。
バッハの無伴奏が終わると、長髪の黒髪を縛った男の子ピアノと一緒に、さらにアコーディオンに似た楽器を抱えた金髪の男の子がその場に加わった。
チェロ、ピアノ、ヴァイオリン、アコーディオンみたいな楽器の男の子たち。彼ら四人が‘赤と黒の蜘蛛’なんだ……。