本気の恋の始め方
「気にしてるとかしてないとかじゃなくて……」
千野君の言うとおり、五十人もいるカラオケルームは大盛り上がりで。
ステージ上にはマイクを握って歌い舞い踊る中堅社員がいて、部長はいつもの持ち芸のマジックを披露してるし。
煙草の煙を避けるために端っこに移動した私のことなんか、誰も気にしていないみたいだった。
一瞬妄想してしまった隠しカメラもない……。
だけど――。
「あの、手……」
テーブルの下、隠れるように千野君は私の手を握っている。
「柔らかいですね、潤さんの手」
害のない笑顔でにっこりされて、目が点になる。
「あの……ちょっと、ここ出ようか?」