夏の夜の海辺で【短編】


あぁ、もう。

こんなフラれたばっかに、なにときめいてんだ私。


「俺、良く聞き上手って言われんだわ」


あぁ、確かに私もそう思う。

こくりと頷く。


「けどさ、聞き上手すぎて相手の言いたいだろうことを巧みにスッと引き出しちゃうんだよ」


……自負というか、自覚しているというか。

まぁそれも今体験したばかりだ、あっている。

実際、私はすんなりとフラれたという話をすることができた。

先ほど同様、ひとつ頷く。


「結局、自然に泣かしてやることが出来ないんだ。"泣かせたくない"って思ってしまうと、どうしても相手にとって楽な方法で話させてやろうって思ってしまってさ」


さっきはドキリとしただけの鼓動が、今度はドキドキと鳴ってきた。


あ、いけない。

こんな抱き締められてたら、相手に伝わっちゃうかもしれない。


「あ、の、」


相手の胸板を押し返して距離を離そうとする。

けれどもほとんど意味を成さなかった。

強く逞しい腕は私をがっちり抱き締めて離さず、……けれども、とても優しくて暖かかった。


まったく、これで私が胸の鼓動の意味がわからないくらいに鈍感で焦っているだけの状況ならばどれだけ可愛かったことか。

けれども、私は知ってる。

このドキドキが、どんな意味を表すのか――………私は知ってるんだ。


「だからさ、つまりは」


私は抵抗するのを諦めて、相手の胸板におでこをくっつけた。

相手は少しだけ驚いたように力を緩めて、けれどもやっぱり優しく抱き締め直す。


「泣き顔よりも笑った顔の方が見ていたい、って思うくらいに君の事好きになっちゃったみたいでさ――――…………」















(それは)

(「この人が好きだ」、と自覚した時のトキメキと)
(「もしかしたら」と願い期待するトキメキの音)


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