主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
銀が若葉のことを意識しているのは、はたから見てばればれだった。

だが本人は気付いていない様子で若葉と一緒に洗濯物を干したり布団を畳んで紐で縛ったり――いつも飄々としている銀がてきぱきと動いているので、ものすごく違和感がある。

朔は風呂敷を両手に持って草履を履くと、一息ついた若葉を外へと誘った。


「お父様の話によれば、しばらく使っていない家らしいから、掃除をした方がいいって言ってた。俺も手伝う」


「朔ちゃんありがとう。ひのえちゃんにもお引越しすること言った方がいいよね?」


草履を履きながらそう言ったが…銀と朔は顔を見合わせた後、揃って首を横に振った。


「いや、別に言う必要ないんじゃない?掃除は1日や2日じゃ終わらないから、お母様や山姫たちも手伝ってくれるって言ってた」


「お家…そんなに広いの?ぎんちゃんと2人暮らしだから、部屋は1つあればいいんだけど。ね、ぎんちゃん」


「ん?ああ…まあそうだな。しかし十六夜が親切にしてくれると気持ち悪いな。あいつは昔は無関心で無表情で無愛想な男だったんだが」


かつては百鬼夜行の主の座を巡って死闘を繰り広げたものだが――今や息吹と夫婦になった主さまは、当時の面影すらない。

無表情なのは昔と変わらないが、伴侶に恵まれ、そしてたくさんの子に恵まれて、後は百鬼夜行を朔に譲って隠居するのみ。

それを楽しみにしながら毎日を過ごしているのだろう。

…正直、羨ましい。


「さあ行こう。朔、ちょっとこっちに来い」


先を歩いていた朔が立ち止まり、追い付いた銀は若葉に聞かれないように声を抑えると、幼馴染でもあり、また何を考えているかわからない朔にくぎを刺した。


「若葉は妖の嫁にはさせない。お前が何を言おうとも、若葉を欲しようとも、阻止してやるからな」


「…なら、ぎんも若葉の嫁にはならないということか?それなら納得できる」


「なに?……若葉を嫁になど考えたことがない。馬鹿なことを言うな」


「そうか?若葉と一緒に居る時のお前は、若葉の旦那になりたそうな顔をしてたぞ」


主さまとそっくりの顔が、にやりと憎たらしげな笑みを浮かべる。

口では“考えたことがない”と言ったものの、自身に何か引っかかりを覚えた銀は、自分と若葉が夫婦になる想像をしてみて、頬を赤くした。


「ぎん、顔が赤いぞ」


容赦ない突っ込みは、新しい家に着くまで続いた。
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