主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
新しい家は主さまの屋敷のある通りに面して建っていた。

ただ通りと言っても幽玄町の最奥なので、幽玄町に住む人々が進んで脚を運ぶような場所ではなく、昼間でも妖が跋扈することがあるので人の通りは全くといっていいほど、ない。

家は立派な門構えで、中は余裕で10人は暮らせるであろう広さだ。

すでに庭に面した縁側の障子は開け放たれていて空気の入れ替えが行われている。

そしてはたきを手にてきぱきと動き回っている息吹を見つけた若葉は、母のように慕っている息吹に駆け寄って手を握った。


「お姉ちゃん、お家をありがとう。こんなに大きいとは思わなかった」


「お礼なら主さまに言ってね。冬は銀さんと2人で1つの部屋を使って他の部屋を閉め切ってれば寒くないから。大きな火鉢と囲炉裏もあるし、隙間風も吹かないからこれで風邪を引かなくなるよ」


にこっと笑いかけてくれた息吹の腕に抱き着いていると、あちこち部屋を見て回っていた銀が戻ってきた。

尻尾はふわふわと動き、息吹は指をわきわきさせてしまいながらも、銀の手にはたきを押し付けて台所に向かった。


「銀さんははたきで埃をお掃除してね。若葉は廊下を拭いて。私と母様はお台所とお風呂場を掃除するから。朔ちゃんはお庭!」


「はい。ぎんちゃん、今日中にお引越しできるように頑張ろうね。すっごく楽しみになってきた」


嬉しそうな顔をした若葉に瞳を細めて頭を撫でてやった銀は、何やら楽しそうな声をあげて風呂場を掃除している息吹と山姫の様子を見に行った。

今まで住んでいた風呂とは全く違い、銀の身長でも脚を伸ばして入れるほどの檜で作られた大きな浴槽は、息吹と山姫の手でぴかぴかにされている。

先日一緒に風呂に入って悶々としたことを思い出した銀は、唐突もなく息吹に疑問を問うてみた。


「お前が小さな頃、十六夜とよく風呂に入っていたか?」


「えっ?主さまと?は、入ってないよ、恥ずかしいし裸見られたくなかったから」


「…んん、その反応が自然だと思う。若葉は…ちょっと違うみたいなんだ。昨晩は俺と一緒に風呂に…」


息吹と山姫が顔を見合わせて目を丸くしたので、慌てた銀はすぐさまその場から離れると、軽快な足取りで廊下を拭いている若葉のお尻をさらりと撫でて躓かせた。


「ぎんちゃんお尻触らないでって言ってるでしょ」


怒られたが、やめるつもりは毛頭なかった。
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