主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
言い聞かせる息吹の顔は真摯で、冗談を言っているような顔ではなかった。

若葉は言われた言葉をじっと噛み締めて、ここ数か月を振り返る。

…銀は女遊びばかりして、家には帰って来るけれど、それをやめることはなかったし、またそんな銀にやきもきしたり、いやな気分になったりしたのは確かだ。

だが…それが“恋心”なのだと言われてすぐに呑み込めるはずがなく、銀は…妖。

銀が願っているのは、自分と人の男が夫婦になることのはず。


もし自分が銀に惚れているのならば…銀を困らせるだけ。


「でもお姉ちゃん…ぎんちゃんは私に好かれても困るよ絶対…」


「聞いてみないとわからないでしょ?ねえ、銀さんに手を繋がれたり触られたりすると、身体から変な音がするでしょ?もししないのなら話は別だけど」


「ううん…する。ほっぺが熱くなるし、身体がどくどく言うの。お姉ちゃん…これが…恋なの…?」


「そうだよ。若葉…銀さんにその気持ちを伝えないと駄目。銀さんもきっと若葉と同じ気持ちだから、よく考えて。…生きる長さは違うけど、その分すごく幸せな時間を過ごせると思うから」


まだ呆然としている若葉の頭を撫でた息吹は、自身が以前抱えていた悩みと今の若葉を重ね合わせていた。

主さまは“人であっても夫婦になっていた”と言ってくれたし、銀だってきっと…同じ気持ちのはず。

人と妖は本来相容れない関係だけれど、こうして心を重ね合わせることだって、皆無ではない。


「どうしよう…ぎんちゃんの顔がまともに見れなくなっちゃう…」


顔が赤くなった若葉がおどおどしている姿は可愛らしく、それから明け方になるまで若葉は息吹に引っ付いて離れなくなった。

恥ずかしがるのもわかるし、はじめて抱いた感情に動揺しているのもよくわかる。

銀がどんな反応をするかはきっと若葉の前でしか見せないだろうし、後は見守ることしかできないが…きっとうまくいくはずだ。


はたから見ても、銀は明らかに若葉に惚れているのがわかるから。


――ひとつの布団で一緒に寝ていると、外にほんのりと青白い炎のようなものが見えた。

主さまが帰ってきたことを知った息吹がそっと身体を起こすと、若葉が起きないように床を抜け出した。


主さまの隣には、銀の姿が。

息吹は何も言わず、部屋の中へと銀を促した。
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