主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
百鬼夜行から戻ってきた銀は、身体を丸くして眠っている若葉の枕元に座ると、寝顔を覗き込んだ。

寒がりでよく風邪を引く若葉は、冬になるとこうして真ん丸になって眠っていることが多い。

少しだけ身体が震えているのがわかると、銀は手をしっしと払って部屋から主さまと息吹を追い出そうとした。


「ここは俺だけでいい。お前たちは違う部屋でいちゃいちゃしてろ」


「うん、じゃあ銀さんはこの部屋で若葉といしゃいちゃしてもいいからね」


そう茶化して部屋を出た息吹が一瞬だけ肩越しに振り返ると…銀は少し恥ずかしそうな顔をして、唇を尖らせていた。

そして主さまと息吹が居なくなると、火鉢に火を入れた銀は布団の中に潜り込んで、背中から若葉を抱きしめた。

身体は寒さで硬直したように固く、火鉢を引き寄せて冷たい若葉の手を握った。


「ん……ぎん…ちゃん…?」


「起きたか。まだ明け方だし寝ていていいぞ。俺があたためてやる」


「うん…。ぎんちゃん…襲わないでね…」


「…は、はあ?お前を襲うほど飢えていない。手をあたためてやるからこっちを向け」


言われた通り寝返りを打って銀と向き合った若葉は、手を口元に引き寄せて息を吹きかけてくれる銀の顔をぼんやりとしたまま見つめていた。


…銀を…好きだと思う。

ただし自分のことを娘だと思っている銀が果たして振り向いてくれるかというと――とてもそんな風には思えない。

銀が相手にしている女たちはたいてい色っぽくて女らしいし、がりがりの自分になんか目も向けないだろう。

そう思い込んでいる若葉は、銀に告白することを躊躇していた。


「あったかい…。ぎんちゃん…」


それっきりまた眠りに引き込まれた若葉の寝顔をじっと見つめていた銀は、若葉の唇から目が離せない自分自身に気付いていた。

ふっくらとした唇は親指で触れてみるととてもやわらかくて――吸い寄せられるように顔を近付けて…一瞬だけ唇を重ねてみた。


想像通りものすごくやわらかい感触がして、動揺しつつもさらに強く唇を押し付けた銀は、若葉が起きたとしてもやめるつもりはなかった。

だが若葉は起きず、少しがっかりしながらも唇を離した銀は、がりありと髪をかき上げた。


「…俺は一体何をしているんだ…」


自身の想いにもう気付いてはいたが…

気付きたくは、なかった。
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