主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
朔に教えられた番地へと脚を運んだ丙は、陰ながらも久々に若葉の姿が見れることに気分が高揚していた。

仮にもいずれは夫婦に…と約束したのだから、焦る必要はない。

足取りも軽く、明るい未来ばかり想像しながら背の高い石垣に囲まれた屋敷に着いた丙は、背伸びをして庭を覗き込んだ。


「…若葉…」


目に飛び込んだのは、庭に座り込んだ若葉と、主さまの妻である息吹が楽しそうに花の種を手にして植えている光景だった。

以前主さまの屋敷でちらっと見かけた若葉はとても顔色が悪くて心配だったが…目の前の若葉は元気そうで、息吹と一緒にちょこまかと動き回っている。

あまり活発な印象ではないのでそんな姿を見るだけでも楽しくて、息を潜めながら目で追いかけていると――

若葉の父代りである銀が縁側に座りながら、同じように目で若葉を追いかけている姿が目に入った。


…興味のないふりをして縁側に寝ころびながらも、けして若葉から視線を外さない。

そして丙は…


銀が自分と同じ瞳で若葉を見ていることに、気付いてしまった。

あれは…恋をしている瞳だ。


「まさか…若葉は…銀さんと…」


「ぎんちゃん寝ころんでばかりいないで手桶に水を汲んできて」


「そうだよ、銀さんも少しは手伝ってよ。せっかく若葉がうちのお庭みたいに綺麗にしたいって言ってるんだから綺麗にしようよ。あと雑草を抜くのを手伝ってね」


「お前たちは俺をこき使う気か。まあ男手が居ないから仕方ない、協力してやろう」


めんどくさいふりをしながら軽快に身体を起こした銀が視界から消えると――若葉が銀を追いかけている瞳を、見てしまった。


…同じように、恋をしている瞳で…銀を見ていたのだ。


猛烈に裏切られたような気分になった丙は、そろそろと後ずさりをしてその場から離れようとした。

瞬きをしたいのに、できない。

今見た光景を信じたくなくて動揺していると…丙の気配と匂いに気付いた銀が玄関の門を潜って顔だけ出して、険しい表情を作り出した。


「なんだお前…何をしに来た?」


「あ、あの…引っ越ししたなんて…聞いてません…」


「それはそうだろう、言っていないからな。今日はこのまま帰れ。近いうち若葉から会いに行くだろう」


「……銀さん…若葉は…俺と夫婦になるって…知ってますよね?」


一瞬きょとんとした顔をした銀は、鼻でせせら笑って肩を竦めながら、口を開いた。
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