主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「お前に会いに行く時間は今までもあったが、会いに行かないのは若葉なりに理由があるからだろう。若葉は追いかけられれば逃げる気質だと思うし、お前…捨てられるぞ」


「…!俺は…若葉よりも銀さんの態度が気になります。だって…銀さん…若葉を物欲しそうな目で見てるから」


途端、銀の鼻の頭に皺が寄って殺気が噴き出した。

元々大物の妖である銀を本気で怒らせてしまうと、命の危険が伴うことをすっかり失念していた丙が身体を震わせながら後ずさりをする。

百鬼に入ったことで“人を殺めない”という誓いを主さまに一応立てている銀だったが、丙に腹の内を探られたことで不快な気分になり、長く変化した爪を丙の喉元に突き付けた。


「物欲しそうな目か。俺がか?あんな小娘をか?勘違いも甚だしいぞ、俺の手で育てた娘をそんな目で見るものか」


「で、でも…」


勇気を振り絞って言い募ろうとした時――銀が戻ってこないことと言い争いの声を聞いた若葉が心配して玄関に回り込んできた。

そして対峙している2人の様子を見て、僅かに表情を曇らせた。


「わ、若葉…」


「…ひのえちゃん…ぎんちゃんと喧嘩してるの?どうして?…また私のせい?」


「お前のせいじゃない。さあ、さっさと戻るぞ」


銀が勝手に話を切り上げて庭へと戻って行くと、若葉は硬直状態の丙を見上げて拳を握りしめた。

こうしてちゃんと話をするのは本当に久しぶりで、銀への想いに気付いてしまった以上――丙の元へは嫁げないとも思っていた。


「あの…ひのえちゃん…話があるの。でもまだまとまってないからもうちょっと待ってほしいの。いい?」


「…どうせ銀さんのことだろ?…目を離すんじゃなかった」


「え?」


小さな声で呟いた丙の表情が傷ついているように見えたので、若葉が1歩近づこうとすると、丙が1歩後退した。

思わず立ち止まった若葉は伸ばした手を下げてまた丙を見上げる。

背を向けた丙は、何も言わずに歩を速めて若葉からなるべく早く遠ざかろうと努めた。


――妖と人が夫婦になること自体、反対だ。

ただ幽玄町を治めている主さまは例外だが…銀のように女遊びばかり繰り返すような男と若葉を一緒にさせるつもりは毛頭ないし、若葉は…自分の妻になるはずだったのに。


「ひのえちゃん」


若葉の声が背中を叩く。

丙は必死にその声から逃げた。
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