主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
朔に“若葉に惚れている”と指摘された銀は、思わず反射的に言い返した。


「誰が若葉みたいな小娘に惚れているだと?お前目が悪いんじゃないのか?冗談も大概にしろよ、若葉なんかに興味など一切持っていない」


まくし立てる自分を黙ったままじっと見つめている朔の様子がまた癪に障った銀は、鋭い牙をちらつかせながらずい、と前に出た。


「俺はお前が若葉に興味を持っているんじゃないかと思っていたが、違ったか?半妖と人との間に生まれる子供は一体どちらに似ていると思う?亜種ばかりが増えて、百鬼など率いることはできなくなるぞ」


「俺は若葉の幼馴染だ。それ以上でも、それ以下でもない。…あいつは先に死ぬ。だから短い人生を幸せに生きてもらいたい。…お前にそれができないことが今ようやくわかった」


「ほう、息吹にしろお前にしろ、一体俺の何がわかると言うんだ。若葉が嫁に行く日を今か今かと待っているのに、俺が育てた娘に惚れるわけがなかろうが。十六夜と一緒にするな」


そう毒づきながらも、襖を閉めた向こう側に居るであろう若葉がこの話を聞いていないことを祈りながら、苛立たしげに舌打ちをして朔の横を通り過ぎようとした。

だが朔に腕を掴まれ、鋭い爪が着物を切り裂いて腕に食い込み、半分ほど貫いた。

ぼたぼたと血が滴り、銀と朔は至近距離で睨み合いながら、どちらが上かを瞳を戦わせて探り合う。


銀も大物の妖だが、まだ百個夜行を受け継いでもいない朔の力が並ではないことを知っているし、朔を傷つけると…とんでもないことになってしまうのだ。

晴明に息吹に主さまに、そして仲間の百鬼たちからどんな目に遭うか――想像するだけでも、恐ろしい。

銀は意識的に瞳を逸らして朔の腕を振り払った。


「…行くぞ。俺の考えは理解できたか?俺は若葉の父代りなんだ。嫁入り前の娘に手を出そうとすれば、俺との全面戦争になるからな」


「その言葉、よく覚えておけ」


――銀は真一文字に口を引き結んで足早に家を後にした。

そして銀が到着すると同時に、息吹が落ち着いたので主さまは百鬼夜行を行うために空を駆け上がる。


そして銀が家に戻ってきた時――


若葉は屋敷から居なくなっていた。
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