主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
その日の百鬼夜行はなんだか心が落ち着かず、主さまの後ろを行きながらも銀はずっとそわそわとしていた。

主さまはそれに気づいていたが息吹を泣かされたこともあり、話を聞いてほしそうにしている銀に声をかけてやる義理などなく、黙々と勤めを終える。

結局最後まで悶々とすることになった銀は自身の発言をもし若葉が聞いていたら…というその一点ばかりがずっと頭の中をぐるぐる駆け巡り、とうとう主さまの肩に手を置いて引いた。


「…すまん」


「…何がだ。手を離せ」


百鬼夜行は主さまの屋敷の庭でいつも解散する。

そして庭が見えた時――夜明け前の極寒の中にも関わらず、息吹が着のみ着のままで庭に立っている姿が見えた。

目を凝らすと――胸に押し付けている両手の中に、何か手紙のようなものが握り目られていて、一気に嫌な予感が背筋を震わせた銀は、主さまよりも先に息吹の前に立った。


「銀さん…若葉が…!」


「なに…?若葉が…なんだ…!?」


ひったくるように手紙を奪って広げてみると――



『お嫁に行きます。

 妖とは無縁の世界で生きたい。だから会いに来ないで下さい。

 今までお世話になりました、ありがとう 若葉』



銀の瞳がぶるぶると震えて、書いてあることが信じられないといったように何度も何度も若葉の細い字を目で追う。

まるで逃げ出すようにして居なくなった若葉がもう、妖と一緒には生きたくないと書いた手紙――


“一緒に生きたくない”のは…俺のことか…


「やはり聞かれていた…朔との会話を…!」


銀の感情が一気に膨らんで爆発すると、百鬼たちが蜘蛛の子を散らすようにして散り散りになってその場から逃げ出す。

若葉が家を出る原因を作ったのは、朔だ。

朔に対しての殺意が膨れ上がると、主さまが銀の胸ぐらを掴んで青白い炎を瞳に灯らせながら、低い声で囁いた。



「身から出た錆…という言葉を知っているか。お前が若葉に惚れていることを若葉に伝えていたならば、こんなことにはならなかった。…俺もかつて同じことをして、後悔をしたことがある。だが若葉はもう会いたくないと書いている。銀…若葉を思いやる気持ちがあるのならば、もう会いに行くな。…俺たちも行かない」


「そんな…主さま!私若葉に会いに行きます!私は人だもの!あの子は私が育てたんだから!絶対行きます!」



息吹の叫びが庭に木霊した。
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