主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
若葉が風邪を引いた時にいつも飲んでいるという薬を持って再び丙の家を訪れた息吹は、一緒について来てくれた朔の手を握って中へと促した。
「朔ちゃん、行こ」
「…俺は半分人じゃないから行きません。若葉が手紙でそう書いたんだから、俺はそれを守ります」
「でも朔ちゃんは若葉と幼馴染でしょ?若葉が会いたくないのは…」
「銀を含め、俺たち妖が嫌いになったのかもしれません。それに…俺は若葉がこんな決断をしなければならなくなった原因を作ったから」
悔いているのか俯いて黙り込んでしまった朔の足元を猫又が労わるようにちょろちょろしながら何度も見上げていたが、若葉は1度朔をぎゅっと抱きしめると、丙の家へと入った。
さすがは幽玄町屈指の名家の長男――家というより屋敷は広く、使用人も居る。
若葉のために最善を尽くそうとして全員が動き回り、ここなら…若葉は幸せに暮らせるかもしれない、と思った。
「丙…さん、これを若葉に。すぐに効くから呼吸も楽になります。私の父様が作ったお薬なの」
「晴明様が…。ありがとうございます。…息吹様、失礼ですがどうしてこんなことに?」
険しい表情できっと見据えてきた丙のまっすぐな瞳を息吹は受け止めながら、事の経緯を説明した。
その間に若葉が何度も激しく咳き込んだりして話を中断しながらも、銀が己の想いに嘘をついて言ったことが発端になったのだと教えられて、歯噛みした。
「やっぱり銀さんは若葉を…」
「本当は両想いなの。誤解なんだよ。でも…若葉があなたを選んだのなら、私は賛成します。若葉は幸せにならなきゃ。元々は幽玄町側の子じゃないから、人と暮らすべきだと思っていました。丙さん…若葉を…よろしくお願いします」
「…息吹様…」
嗚咽を堪えながら両手で口元を覆って立ち上がった息吹は、最後になんとか笑顔を取り繕って丙に笑いかけた。
「白無垢のお着物はこっちで準備したいんだけど、いい?それが…私たちが若葉にできる最後のことだから…」
「はい…よろしくお願いします」
はにかみながら受け止めてくれた丙が見守る中、息吹は小走りに玄関に向かって飛び出すと、朔を見た途端ぼろっと涙を零した。
もう若葉にしてやれることが何もなくなる――
娘のように思っていた若葉は、丙に嫁ぐのだ。
「朔ちゃん、行こ」
「…俺は半分人じゃないから行きません。若葉が手紙でそう書いたんだから、俺はそれを守ります」
「でも朔ちゃんは若葉と幼馴染でしょ?若葉が会いたくないのは…」
「銀を含め、俺たち妖が嫌いになったのかもしれません。それに…俺は若葉がこんな決断をしなければならなくなった原因を作ったから」
悔いているのか俯いて黙り込んでしまった朔の足元を猫又が労わるようにちょろちょろしながら何度も見上げていたが、若葉は1度朔をぎゅっと抱きしめると、丙の家へと入った。
さすがは幽玄町屈指の名家の長男――家というより屋敷は広く、使用人も居る。
若葉のために最善を尽くそうとして全員が動き回り、ここなら…若葉は幸せに暮らせるかもしれない、と思った。
「丙…さん、これを若葉に。すぐに効くから呼吸も楽になります。私の父様が作ったお薬なの」
「晴明様が…。ありがとうございます。…息吹様、失礼ですがどうしてこんなことに?」
険しい表情できっと見据えてきた丙のまっすぐな瞳を息吹は受け止めながら、事の経緯を説明した。
その間に若葉が何度も激しく咳き込んだりして話を中断しながらも、銀が己の想いに嘘をついて言ったことが発端になったのだと教えられて、歯噛みした。
「やっぱり銀さんは若葉を…」
「本当は両想いなの。誤解なんだよ。でも…若葉があなたを選んだのなら、私は賛成します。若葉は幸せにならなきゃ。元々は幽玄町側の子じゃないから、人と暮らすべきだと思っていました。丙さん…若葉を…よろしくお願いします」
「…息吹様…」
嗚咽を堪えながら両手で口元を覆って立ち上がった息吹は、最後になんとか笑顔を取り繕って丙に笑いかけた。
「白無垢のお着物はこっちで準備したいんだけど、いい?それが…私たちが若葉にできる最後のことだから…」
「はい…よろしくお願いします」
はにかみながら受け止めてくれた丙が見守る中、息吹は小走りに玄関に向かって飛び出すと、朔を見た途端ぼろっと涙を零した。
もう若葉にしてやれることが何もなくなる――
娘のように思っていた若葉は、丙に嫁ぐのだ。