主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「…所詮は…そんなものか」

山姫に男ができたかもしれない、とわかった時――晴明の中で何かが急激に冷めたのがわかった。

今までは、これからもずっと山姫を想っていけるという妙な自信があったが…いざ、茨木童子と一緒に居る姿を見てみると、嫉妬や怒りはなく、ただ何かが冷えたのがわかっただけ。


「思い込みだったのかな。…そうかもしれぬな」


「ちょ、晴明?今来たばっかなんだろ?どうしたんだい?」


「少し顔を出しに来ただけだ。用はもう済んだ故、平安町に戻るよ」


牛車に乗り込もうとした時、山姫から袖を引かれたが、晴明は無下にそれを振り払う。

今まで晴明にそんな態度をとられたことがなかった山姫が傷ついた表情を浮かべてたので、晴明の心も一瞬痛んだが…冷めた想いは変わらなかった。


「晴明…あたし…あんたに何かしたのかい?」


「さて、私にもわからぬ。とりあえずはいち早くここから去りたい。だから手を離してくれると助かる」


「…わかったよ。せっかく久しぶりに来てくれたのに…今度はゆっくりおいで」


山姫は相変わらず優しい。

茨木童子との関係を何が何でも問いただすつもりだったのに、もうそんな気持ちが失せてしまった晴明は、無言で御簾を降ろした。


「晴明」


牛車を行かせようとした時――縁側でだらだらしていたはずの主さまに声をかけられたので晴明が御簾を上げると、主さまは欠伸をしながら酒を飲むような仕草をして見せた。


「もう少し寝たらお前の屋敷に行く。俺を盛大にもてなせ」


「…わかった。久々に盃を交わすとしよう」


「主さま、あたしも…」


「お前は駄目だ。男だけで飲み交わしたい時もある」


――主さまが気を遣ってくれているのだと感じた晴明は、そこでやっとふわりとほほ笑んだ。

主さまは元々気を遣うような男ではない。

常に俺様で我が道をゆく男なので、こうして声をかけられたことに晴明は驚いたが、少しだけ気分が和らぐと、牛車を走らせた。


「十六夜…似合わぬことをする」


山姫と茨木童子…2人を見たのは一瞬だけだが、仲睦まじい様子は、男女の関係だといわんばかりのものだった。


「…妻でも娶るか。くよくよするのは性質ではない故」


ぽつりと呟いた晴明は、屋敷に着くまでただじっと瞳を閉じていた。
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