主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
山姫に追い出されてしまった主さまが晴明の屋敷を訪れると、家主は縁側に寝転がってふてくされていた。


「来てやったぞ。酒の用意をしろ」


「…相変わらず横柄な態度だな。調伏してやろうか?」


「お前みたいな新米の陰陽師如きにやられる俺じゃない。酔っぱらわないとできない話をしよう、と言ってるんだ」


小雨が降る中、濃紫の着物の肩を濡らす雨粒を指で弾いた主さまは、晴明を急かしながら勝手に屋敷へ上がり込んだ。

すると晴明が人差し指を唇にあてて何か唱えると、人型に切り取った紙が水干姿の童子になり、台所へ消えてゆく。


…晴明が独りで暮らすには広すぎる屋敷だ。

元々平安町と幽玄町を隔てている幽玄橋を行ったり来たりすることは許されない。

だが晴明は半妖であるために、主さまから特別な許可を経て行き来をしているため、晴明が半妖であることは周知の事実となっているのだが、晴明の元に嫁へ行きたがっている女も多いと言う。


「さあ用意したぞ。で?酒を飲まねばできぬ話とはなんだ?」


「山姫のことだ。お前が冷たい態度を取ったものだから、今日は始終そわそわしていたぞ」


「それは私のせいではない。私は茨木童子と山姫の仲に言及しなかったぞ。私の態度を気にするとは、笑止」


つれない晴明の態度は、主さまの目には愛情の裏返しに見えた。

愛情が憎しみに転嫁し、どうにか自身を納得させようとしている晴明は本人は気づいていないだろうが…唇は尖り、度の強い酒を一気に呷った。


「そうは言ってもお前の機嫌の悪さを気にしている。素直に告白したらどうだ?」


「山姫はもう男を作ったのだから、私が告白したとしても邪魔になるだろう。それに気を遣われるのも気持ちが悪い。…嫁でも娶ろうと思う」


また酒を呷った晴明の顔をまじまじと覗き込んだ主さまは、突然膝を叩いて大笑いをした。

その態度がまた腹に立った晴明は主さまに扇子を投げつけると、膝を立てて、主さまに上体を傾けた。


「何がおかしい?いくら百鬼夜行の王と言えども許さぬぞ」


「餓鬼だ、と言っている。お前は欲しいものが手に入らず駄々をこねている餓鬼だ。山姫に責はないぞ、あれは久々に男を欲しているだけだ。妖としてな」


「…山姫になら食われてもいい」


「お前がか?それは俺が困る。俺は葛の葉に代わってお前を見届ける責任があるんだ。もし山姫がお前を食ったら、俺は山姫を殺すぞ」


晴明は自身の手をじっと見つめた。

山姫が気にしてくれていることが嬉しく、主さまの気遣いが嬉しく、少しだけ頬を緩めた。
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