主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
主さまに本物の殺気を叩きつけられた茨木童子は、這う這うの体で主さまの屋敷を後にする。

また山姫も興奮冷めやらずの状態で髪は逆立ったままだったが、主さまがふっと息を吐くと、我に返ったかのように両手で口を覆った。


「ぬ、主さま…あたし…」


「…今のは冗談だ。これで茨木童子もここには来ないだろう。…問題は晴明だな。あれが俺の目の届かない所でいったい何をしているのか気になる。…ちょっとお前行って見て来い」


「えっ!?あたしがですか?!そんな…いやですよ、変に勘違いされても困ります!」


「いいから行って来い。これは命令だ」


有無を言わさぬ態度に気圧されてしまった山姫は、渋々といった感じで一旦部屋に下がり、なぜか化粧をして紅を引いた。


「なんであたしが…」


そう言いながらもいそいそと屋敷を出て行く山姫を縁側から眺めていた主さまがにんまり笑う。


「晴明と山姫が夫婦に?おもしろすぎて臍で茶が沸かせそうだ」


主さまが忍び笑いを漏らしていることをもちろん知らない山姫は幽玄橋を渡り、商店街へ行って人に紛れて食材を買うと晴明の屋敷の戸を叩いた。


「晴明、出て来な!あんたに言いたいことがあるんだ!」


…だがいくら待てど暮らせど晴明は出て来なかったが、その代わりに童女の姿をした式神が出てきて頭を下げてきた。


「晴明さまはお休みなさっておられます」


「え?昼間なのに…まさかまた体調でも悪いんじゃ…」


慌てふためいて中へ入り、草履を蹴散らかしながら中へ上がり込んで晴明の部屋へ突き進むと――なんともあどけない笑顔で昼寝をしている晴明を見つけた山姫は、思わず食材の入った籠を晴明に投げつけた。


「ん…?なんだ…山姫か…」


「なんだとはなんだい?!あんた…あたしが心配して来たのにその態度はなんだい!?もう屋敷に来ないでどのくらい経ったと…思って……あんた…誰だい?」


山姫の言葉が止まったのは、開け放った襖を潜って部屋に入ってきた美女の存在に驚いたからだ。

鮮やかな朱色の十二単にまっすぐで艶やかな黒髪と真っ赤な唇をしたたおやかそうな美女は、晴明の枕元に座ると、山姫の前で膝枕をしてのけた。


「…晴明?この人は…?」


「別に知らずともよい。綾姫、喉が渇いたな。茶でも…」


「そう仰ると思ってお持ちしましたよ」


「おお、それは気が利くな。ありがたく頂こう」


山姫の唇が尖った。

綾姫、と呼ばれた姫に嫉妬したのは、誰の目から見ても明らかだった。
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