主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
右目の下に泣きぼくろのある美女は、晴明に膝枕をしてやりながらちらりと上目づかいで山姫を見つめた。

その挑戦的な態度にむっとしたが、晴明の恋人でもなければ妻でもない山姫は文句のひとつも言うことができず、ただただ見たくもない光景を見下ろす羽目になっていた。


「知らなくてもいいって…ああそうだね、心配したあたしが馬鹿だったよ!


晴明は畳に散らばった食材を見つめた。

どれもこれも小さな頃からの好物で、山姫が本当に心配してくれている気持ちが伝わってきたが…心は半分山姫を諦めようとしていたので、俯いて瞳をぎゅっと閉じる。


「心配してくれたのか?それはありがたいが、ご覧の通り相変わらずのんびりと暮らしているよ。…妻を娶ろうと決めた故、もう私を心配することはない」


「…妻?あんた…誰かと夫婦になるのかい?まさか…綾姫と?」


「十六夜から聴いていないのか?とにかく私はしばらくの間幽玄町へ行くことはない。さあ、もう戻った方がいいぞ」


最高にいらっとした山姫は、綾姫の膝枕にあやかっていた晴明の肩を思い切り蹴って畳をごろごろ転がせた。

そうしながらも晴明を抱き起そうとする綾姫と晴明の間に身体を入れて割って入ると、荒々しい瞳で晴明を睨みつけた。



「粋がってんじゃないよ、餓鬼が!」


「…山姫」


「あたしはあんたが誰を好いてるのか知ってる。…それが誰だか敢えて口にはしないけど、あたしを怒らせようとしてるのならやめといた方がいい。…茨木童子はもう幽玄町に来ない。あたしはまだまだ独り身で居たいんだ。わかったかい」


「…何故それを私に宣言するのだ?私が誰を好いていると?」


「言わないって言ったろ。でもその女はあんたが好いてることを知ってるみたいだよ。…それを嫌がってないみたいだし、あんたが短気や悋気を起こす必要もないんだ。…それを伝えに来たんだ。もう帰るからね!」



山姫が背を向けた時――晴明が柏手を打った。

何をしたのかと思って振り返ると、さっきまでそこに座っていた綾姫が消えていたので辺りを見回していると、晴明はまだ畳に転がっていたが…肩で笑っていた。


「ふふふ…そなたは自意識過剰だな」


「ふん、なんでそこであたしの名が出るんだい?あんたこそ自意識過剰なんだよ」


――晴明は瞳を閉じ、はじめて幽玄町の屋敷に行った時のことを思い浮かべた。

…最初から美しい人だと思っていた。

今もその気持ちに変わりがないことを確認し、むくりと起き上がった。
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