主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
大体が今まで大人しくしすぎていたと思う。

童子の頃に比べて身体も大きくなったし、声も低くなったし、見えないところも成長したし、女にだってよく声をかけられる。


だが山姫だけは違い、いつまでも童子扱い。

どうしても山姫を意識させたい晴明は、ほっとした顔で隣に座った山姫の手をきゅっと握った。

途端に山姫はぎこちなく肩を揺らして視線を逸らしたので、まったく意識されてないわけではないとわかると、“もっと”という心の声が聴こえた。


「好いている女を知っているそうだな。それで?今後私の想いに応えるつもりがあるのか聴いているか?もし知らぬのであれば、それとなく聴いてほしいのだが」


「えっ?あ、いや…あたしはそのー…そういうのを聴くのは下手だし、あんたが直接口説けばいいじゃないか。あたしを使わないでおくれ」


「ほう?口説いてもよいのか?その場合、しばらくの間は幽玄町に返さぬつもり故、十六夜にもその旨伝えておこう」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなっ、あたしはそんな気は…」


「今なんと言った?“あたしはそんな気は”とはどういう意味だ?」


からかい続けると、山姫の顔はどんどん赤くなり、しまいには手を振り払われたが、くじけない晴明はまた山姫の手を握って引き寄せると、人差し指の指先にちゅっと口づけをした。


「!」


「私の想いを知っていながら知らぬふりをするのはどういう了見だ?確と私にわかるように説明してくれ」


「…あんたみたいな青二才はお断りだって言ったろ。出直しといで」


「私とて男らしくなったぞ。…首を振っているが、その証拠を見せてやろうか」


晴明が突然立ち上がったので、つられるように山姫も顔を上げたが、いきなり直衣の袖から手を抜いて抱え紐を外した晴明に驚いた山姫が座ったまま後ずさりをした。


「せ、晴明!?」


「私がどこまで育ったか、脱いで説明してやろう」


「しなくていい!この助平!あ、あたしもう帰るからね!あんたの茶番に付き合ってる時間なんかないんだ!」


晴明は、そそくさと立ち上がって逃げようとした山姫を背中から抱きしめた。

山姫の細い身体は緊張にかじかんだように震えたが、お構いなしにきつく抱きしめると、魅惑的な低い声で耳元で囁いた。


「そなたはいつかここに私と共に住むことになる。必ずそうなる。これは言霊故、必ず叶うことになる」


――そして山姫は目を覚ました。

隣には晴明が眠っていて、思わず笑みがこみ上げた。
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