主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
主さまたちが百鬼夜行を終えて戻って来たのを雪男と一緒に待ち構えていた息吹は、駆け降りてきた主さまの横を素通りして銀の着物の袖を握った。


「銀さん話があるの。怒らないで聴いてくれる?」


「ん?ああ、話の内容によるが。どうした?」


また主さまと雪男がいがみ合っている姿が目に入ったが、それよりも若葉の心境の変化に気付いてやってほしいと思った息吹は、銀の腕をぐいぐい引っ張って朔の部屋の前まで連れて来た。

そしてそっと襖を開けると――朔と若葉が寄り添うようにしてすやすや眠っている姿を見た銀が小さな舌打ちをして尖った八重歯をむき出しにする。


「なんだ、あれと夫婦にさせたいとかいう話じゃないだろうな」


「うん、それもいいなって思うけど…違うの。昨日丙っていう男の子が来たでしょ?…若葉は近いうちに、その子と夫婦になろうって思ってるみたい」


「…は?」


思わず素っ頓狂な声を上げてしまった銀が片手で口を覆って襖を閉める。

何の冗談なんだと言いたかったが…誰よりも若葉の傍に居て世話をして心配してくれている息吹がこんな笑えない冗談を言うはずがなく、ふわふわ揺れていた尻尾が動きを止めた。


「…本当なのか」


「うん。今すぐに…っていうわけじゃないみたいだけど、今日から畑の仕事を手伝うって言ってたから…銀さん…若葉との時間が減っちゃうよ。それでもいいの?」


「…若葉が望むなら、それでいいんじゃないか。あれももう年頃だし、早く夫婦になって幸せにしてくれる男が居るならば、くれてやる」


言葉とは裏腹に背を向けた銀の背中は怒りに満ちている。

足音も高く大広間に移動してどすんと腰を据えた銀は、いらいらしながら火鉢の中を棒でかき混ぜた。

雪男は熱に弱いので、冬になると大抵縁側に居るのだが、息吹が姿を現すと、熱に弱いにも関わらず中へ上り込んでなるべく息吹の近くに座って主さまをいらつかせた。


「お前はまた若葉のことでいらいらしているのか」


「うるさいぞ十六夜。何故お前のところの餓鬼大将と若葉が一緒に寝ているんだ?手を出したらお前の子と言えど、殺すからな」


「朔の潜在能力を甘く見ない方がいい。…あれも若葉を気にかけているんだ。お前だけじゃないことを忘れるな」


「…」


黙り込んだ銀は、朔の部屋の方に一瞬視線を走らせると、腰を上げて丘の上の家へと戻って行った。
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