主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
若葉が目覚めた時、そこがいつも寝ている部屋ではなく、朔の部屋であることに気付いて目を擦りながら身体を起こした。


「起きた?顔を洗ったら一緒にご飯を食べようね」


「お姉ちゃんおはよう。…ぎんちゃんは?」


「銀さん?1度若葉の様子を見に来たけど、お家に戻って行ったと思うよ。…若葉?」


息吹が綺麗に畳んで用意してくれた着物を受け取った若葉はその場で浴衣を脱ぎ、急いで着替えをして無言のまま縁側に下りて草履を履いた。

そこには朔が座っていて若葉を見上げていたが、声をかけずに黙々と本を読んでいる。

すると若葉が朔の手から本を奪って立ち上がらせると、ぐいぐい手を引っ張った。


「朔ちゃんついて来て。…絶対ぎんちゃんが怒ると思うから、朔ちゃんに一緒に居てほしいの」


「…俺だってぎんに怒られたくない」


「お願い朔ちゃん。お願い」


あまり表情が動かない若葉が少しだけ必死な表情になると、朔は仕方ないという感じで腰を上げると、息吹に笑いかけた。


「ちょっと行って来ます。…ぎんと喧嘩になったらごめんなさい」


「お父様には言っておくから、若葉を守ってあげてね。銀さん怒ると見境なさそうだから気を付けて」


息吹に送り出された朔と若葉は、肩を並べて屋敷を出て緩やかな丘を上がった。

無二の幼馴染であるために、朔としても銀に冷たくあたられる若葉を見たくないし、それに銀が愚図ったり怒るのも不当なものだと思う。

人の男と夫婦にさせたいのであれば、銀が若葉に冷たくするのはおかしな話だ。


「朔ちゃん…ぎんちゃん怒ると思う?」


「怒ると思う。お前がぎんに反対されても丙と夫婦になりたいって思うのなら、俺が味方になってやる。好き止まりなら…夫婦になることない。丙が苦しむだけだと思うから」


「?そうなの?朔ちゃん傍に居てね。ぎんちゃんが怒るとこあまり見たことないから、ちょっと怖い」


話しているうちに家に着いたので、若葉が戸を開けると、銀は新調した布団に包まって背を向けて眠っていた。

だが帰って来たことに気付いたのか耳と尻尾がぴくりと動き、若葉と朔が草履を脱いで中へ上がると、銀が起き上がる。


「どうして朔がここに居るんだ?」


「ぎんちゃん、話があるの」


まだ何も話していないのに、銀の濃紺の瞳がぎらりと光った。

朔は無言で若葉の隣に座って牽制をかけながら、腕を組んで2人を見守った。
< 95 / 593 >

この作品をシェア

pagetop