偏食家のテーブル

九年前、夏 1

記録的な猛暑がユタカのボロアパートを襲った。その部屋の空間は、熱気と薄れる意識のせいでねじ曲がっていく。ユタカがヤバいと感じる。こういう時の危機感のアラームが鳴るのは、だいたいの場合が遅い。もうユタカの頭から湯気が立ちのぼり、後は音を立てて倒れるだけだった。
「…バタン!」
ユタカは自分が倒れる音を聞いた。
「オイ!ナンだこの部屋?」
「うわっ!ヤバ!」
ユタカはこの灼熱の地獄と化した部屋に二人の客が来た事に気付けない。いや、気付いていたかもしれないが、動けない。
「ユタカぁ!こんな部屋にいて…?オイっ!ユタカっ!オマエまさか!オイっ!」
ヒガシはここで事の重大さに気付く。そして、ハルカはヒガシの慌てぶりに驚く。
ヒガシは鍋に猛暑のせいで暖まってしまっている水道水を入れて、ユタカにかけた。部屋の中だろうが関係なく。そこで初めてユタカはヒガシの体に身を預けた。ユタカは立ったまま気を失っていたのだ。そして、さっき聞いた「バタン」という音は二人が開いていたドアを閉めた音だった。
「ハルちゃん、汲んで」
ヒガシはユタカを支えながら、呼び掛けた。
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