バイナリー・ハート 番外編
十年後、フェティは四十歳、ランシュは三十一歳になっている。
確かにおばさんとおじさんだ。
フェティと出会った頃には、そんな先の未来を考えるだけ愚かな事だった。
十年後の未来を想像できる幸せをランシュはかみしめる。
自然に頬が緩んだ。
「ねぇ、フェティ。もし十年経ってもフェティに恋人がいなかったら、オレが恋人になってあげようか?」
「あら、嬉しい。じゃあ私は、焦って結婚相手を探さなくていいのね」
ニッコリ笑って躱すフェティをランシュも苦笑しながら見つめる。
焦る気なんか、全然ないくせに。——そう思ったが黙っておいた。
きっとフェティにとって、ランシュの言う事など子どもの戯れ言にしか聞こえないのだろう。
ランシュにしても、そんな事は承知している。
今のような友達関係の方が気楽なのだ。
恋人はともかく結婚相手となると、自分の秘密を明かさなければならないだろう。
それを思うと、もう子どもじゃないからこそ、女性との付き合いは慎重にならざるを得ない。
だがフェティなら、昔ランシュをかわいそうな実験サンプルではなく、人として認めてくれたように、今のランシュも受け入れてくれそうな気はする。
もしも十年後、フェティと共に歩む人生が待っているとしたら、それも悪くはないなとランシュは思った。
(完)