バイナリー・ハート 番外編


 自分が生まれてすぐに、あの人は収監されたのだと思っていた。


「三日? その三日間、オレはあの人に育てられたんですか?」

「詳しい事はオレも知らない。その頃はまだ部外者だったからな。彼女が逮捕されたのはおまえが生まれた三日後だと聞いている」


 ランシュは生まれてから十六年間、科学技術局から出た事がない。
 当然ながらその三日間も局内にいたのだろう。

 ヒトを培養していたのだ。
 生まれるまでもバレないように気を遣っていたはずだ。
 泣くのが仕事のような新生児を、局内に隠しておくのは難しい。

 元々ランシュは、あの人の夫の身代わりとして作られた。
 普通に考えれば、急速成長用の培養槽に、すぐにでも移し替えるのが妥当だろう。
 だが、そうした記録が残っていない。

 だから生まれてすぐに、泣き声でバレて彼女が捕まったのだと思っていた。

 三日もの間、どうやって赤ん坊を隠し通せたのだろう。
 彼女に対する疑問が、またひとつ増えた。

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