バイナリー・ハート 番外編


 穏やかな笑みを湛えてランシュを見つめるその顔は、ユイと同じ母の表情だ。


「こんにちは。これ、ユイから。よろしくって」


 ランシュも微笑んで、ガラスの壁に穿たれた小窓から、ユイのお菓子を差し出した。

 彼女が礼を言って受け取り、互いにガラスの壁を挟んで向かい合わせに腰掛ける。

 彼女はランシュの顔をしげしげと眺め、懐かしそうに目を細めた。


「本当に、あの人とよく似てるわ」


 そして「当たり前だったわね」と付け加えて苦笑する。

 ランシュの姿を通して、法を犯してまで夢見た夫との再会を喜んでいるのだろうか。
 先ほど見せた母の表情は、ランシュの無意識な希望から来る、判断の誤りだったのか。

 彼女の生理的数値の変化から、それを特定する事は出来なかった。

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