バイナリー・ハート 番外編
ただ、ランシュに会えた事を喜んでいるのは確かだ。
感慨深げな彼女とは裏腹に、相変わらずランシュの中に、そういった感情が湧いてこない。
感動の再会を期待させるのも、気の毒な気がする。
ここは正直に伝えよう。
静かな笑みを湛え、努めて冷静に淡々と、ランシュは彼女に告げた。
「ユイに言われてきました。オレの上司である科学技術局局長の家族に加えてもらった事を、あなたに報告するために」
彼女は一層笑みを深くして、静かに頷いた。
「ユイさんて、いいお母さんね。あなたには恨まれているだろうと思っていたから、こうやってわざわざ来てくれただけでも嬉しいわ」
恨んではいない。
だが忘れてしまうほど無関心だったのだから、それより酷いかもしれない。
ここに来たのも、会うのが目的ではない。
ランシュの思惑を知ってか知らずか、彼女は静かに語り始めた。