あなたを抱けなかった理由
彼の家族のこと



「僕には『家族』がないんだ。生まれた時から『施設』で育ったんだ。
でもね、施設の先生はやさしかったよ。学校でもいじめられることもなかったな。

僕はラッキーなんだと思う。そうじゃない子が多いからね」




彼が家族のことを話した時、その視線の先には私がいるのに、私を通り越したその先を見ているような眼をしていた。



私は、それがとても悲しくて「私がここにいるよ」とギュッと彼を抱きしめた。








私が、初めて彼に触れた夜だった。


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