花街妖恋
『何言ってんだい。私がそういうものを好むことぐらい、承知だろ。何もお前の色恋を乱したわけじゃなし』

「・・・・・・お前は、おさん狐だものな」

 息をつき、男は路地の壁に寄りかかる。

 上空に浮かぶ狐は、おさん狐。
 とりわけ男女の仲を裂くのが好きな、妖狐である。
 その程度の悪戯、妖怪の仕業にしては可愛いものだが、あまりに男の目に余ったのだろう。

 さらに悪いことに、同属というのは眷属によって、非常に仲が悪かったりする。
 おさんと男の仲は、最悪だった。

『ふん。とにかく、わかったね! いらぬ口出しは、怪我の元だよ』

 吐き捨てるようにそう言うと、おさんはぷい、と慌ただしく掻き消えた。

 おさんもかなり力を使ってしまった。
 平気なふりをしているが、気を抜けば男と同様、地に落ちてしまいそうだったので、バレないうちに退散したのだ。

 しばらくよろよろと路地を歩いていた男だったが、ついに、がく、と膝を付いた。
 そのまま前のめりに倒れ---その先のことは、覚えていない。
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