花街妖恋
出会い
 耳元で微かな衣擦れの音がし、額がいきなり冷たくなった。
 驚いて目を開けると、真っ白い手が目に入る。

 思わずその手を掴み、男は上体を素早く起こした。

「きゃっ」

 小さく悲鳴を上げたのは、手を掴まれ驚いた表情の女子(おなご)。
 そのあまりの美しさに、一瞬男は目を見張った。
 あまり表情のないこの男にしては、珍しいことである。

 視線を巡らせれば、どうやらどこかの置屋らしい。
 ということは、この女子は、ここの遊女か。

 そう思って視線を戻すと、女子は少し困った顔をして、もじもじしている。
 気づけば、女子の手を握ったままだったのだ。

「あ、あの。お加減は? 起きたりして、大丈夫なのですか?」

 おずおずと、女子が言う。
 男は少し首を傾げ、己の状況を把握しようと試みる。

 そんな男から、女子はそろ、と手を離して、落ちた布を取った。
 先程額が冷たくなったのは、これを乗せられたのだとわかる。

「あなた様は、そこの路地に倒れておりましたの。まさか放っておくこともできず、うちにお運びしたのです」
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