W-アイ ~君が一番に見たいもの~ 【完】
俺は、お袋と一緒に病室を出た。
――オッサン、颯(はやて)って名前だったのか……。
帰り間際になって、俺は初めてオッサンの名前を知った。
つまり、一か月もの間オッサンといた病室のネームプレートを見たのもこの日が初めてのことで。
「つうか、颯ってツラかよ」
俺は思わずそう呟くと、お袋と二人で廊下を無言で歩き出した。
すると、こっちに向かってくるオバサンが一人。
不安そうに一部屋、一部屋ネームプレートを確認しながら歩くオバサンは、手には大きな紙袋を二つも持ち、白髪交じりの髪を一つにまとめている。
そして、俺らに軽く会釈をしてすれ違った。
――まさか!
俺の中で、何かがトクンと波打ったのがわかった。
『俺はさあ、お袋の顔が見てえんだ……』
小さく、トクンとだけ波打った。