執事ちゃんの恋
第28話




第28話



 今後のことを話し合おうとした三人だったが、そこに突然携帯の着信音が流れた。
 どうやらその着信音は、健の携帯からだったようだ。
 
 小さく息を吐き出したあと、健は携帯を取り出した。


「……はい。ああ、兄さん。どうしましたか?」


 ヒナタとヒヨリは、その電話の主が文月家当主であり、健の実兄である栄西だとわかり視線を合わせた。
 静かなホテルの一室には、健の声だけが響く。


「……ああ、はい。わかりました、では今からそちらに伺います」


 ピッと少しだけ乱暴に携帯を切ると、健はヒヨリとヒナタに視線を送った。
 携帯をジャケットの内ポケットに仕舞いながら、めんどくさそうに呟く。


「兄さんからの呼び出しがきてしまったよ」


 顔を歪める健を見るだけで、栄西からの電話は面倒ごとらしいことがわかる。
 健は大きくため息をついたあと、ヒヨリが先ほどいれたコーヒーを一口飲んだ。


「行きたくはないが、行くしかないだろうな」


 口ではそんなことを言っておきながら腰をなかなかあげない健に、ヒヨリはポンポンと健の肩を叩いて立つように促した。


「ちょっと健せんせ。栄西さまからの直接の呼び出しなんだから、早く行ったほうがいいって」

「うーん」

「うーん、じゃないでしょ!? ほら、さっさと立って」


 健の腕を掴んで立ち上がるヒヨリを見て、健はハァともう一度大きくため息をつく。
 しかたなさそうに健はヒヨリに促されて立ち上がった。
 腕時計で今の時刻を確認したあと、健はガシガシと頭をかく。
 ムースでしっかりと整えられていた髪は、無残にもグシャグシャだ。






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