執事ちゃんの恋





(わかっているし、覚悟も……できている)


 そう頭の中で何度も自分に言い聞かせるように繰り返す。
 ヒヨリは、気を緩めてしまえば泣き言を言いたくなることをわかっていた。
 だからこそ顔をこわばらせ眉間に皺を寄せるのだ。

 今回の村岡美沙子の件を、ヒヨリは直接宗徳の耳には入れていない。
 ヒナタあたりが、あのパーティーの一件をすべて話しているとすれば別の話だが。

 だが、宗徳の様子をうかがってみても、どうやら何も知らない様子だ。


 さすがに村岡美沙子が、ヒヨリを陥れようとしているということを宗徳が知っていたとしたら、栄西に縁談の話を聞かされたときに、それとなりに話していただろう。

 宗徳にしてみれば、栄西が勧めてきた縁談だ。
 ヒヨリのことを思って縁談の話を持ってきてくれたのだろうと思っているに違いない。
 栄西にしても、村岡家とはもともと縁を結ぶ予定だった家だ。
 悪く思っているわけがない。
 
 その上、なかなか結婚をしたがらなかった健をなんとかしたいと思っていることは確かだ。
 それならと、再び美沙子との縁談の話があがるのもうなづける。
 なんといっても前回は二人して結婚の意思がなかったが、今回は違う。
 美沙子が健との結婚に意欲的だ。
 それならばと、栄西が村岡家に再び近くなるは自然の流れだろう。


 その村岡家が推薦している男となれば、栄西が興味がでたとしても不思議ではない。
 霧島家の発展は、同時に文月家の安泰にも繋がるのだ。

 それにはどうしたらいいか。

 放浪癖があると思われているヒヨリを、なんとしても日本の霧島本家にとどめておきたい。そう考えるのが普通だろう。
 それにはどうすればいいか。
 答えは簡単。おのずと自然に出てくる。
 ヒヨリに結婚を促し、霧島本家を継がせる。これが最良の策だ。


 今、あのときの出来事を父である宗徳と、村岡を信頼している栄西に言っても聞く耳を持たないだろう。
 となれば、この縁談。ヒヨリの力では断ることはできない。
 それを見越して、美沙子が仕掛けていたとしたら……なかなかに食えない人だ。






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