執事ちゃんの恋






「実力行使です」
 

 そういって健は、ヒヨリの着物の衿に手をかけた。

 びっくりして固まるヒヨリを横目でチラリと見たが、手を止める気は全くないらしい。
 着物をゆっくり肌蹴ていく健の手を抵抗するようにヒヨリは掴むが、今度はヒヨリの両手首を掴んで健は阻止する。


 グッと健はヒヨリとの距離を詰め、うなじに唇を寄せた。
 ビクリと体を震わせるヒヨリの耳元で囁いた。


「これでもまだ言わない?」

「んっ!」


 自然の流れとばかりにいとも簡単に着物を剥いでいく健。

 抵抗しようにも、ヒヨリは健に与えられる甘美な刺激で、すでに身体に力が入らない。
 それでもまだ言わないヒヨリに、健は悲しそうな瞳で見つめてきた。


「ねぇ、ヒヨリ。どうして本当のことを教えてくれないんだい?」


 その悲しそうな声色に、ヒヨリの胸は痛んだ。


「ヒヨリは、結婚するつもりなのかい?」

「え?」


 健の言葉に、ヒヨリは心底驚いた。

 悲しさが滲むその声は、まるでヒヨリを結婚させたくないといったニュアンスにも聞こえる。

 それに健はどうやらヒヨリが振袖を着ていた理由を知っているようだ。
 そうでなければ、突然そんな核心をついたことを言えるはずがない。

 ヒヨリが親同士の取り決めで縁談をしたということを健が知っていて、だからこそそれを引き留めてくれようとしてくれているのだろうか。

 都合がいい解釈をしたと後悔しながらも、どこかでそうであってほしいと願うヒヨリは、健を至近距離で見つめるしかできない。







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