執事ちゃんの恋






 ――― 健せんせも、怖いの? 不安なの?


 ヒヨリがどんな答えを言うのか、健も不安がっている。
 そんな健を見て、ヒヨリは嬉しさに涙が滲んだ。


「間違いないよ。私は健せんせが好き。健せんせの未来を守ってあげる」


 村岡のいい道具になんてさせない。

 ヒヨリは決意に満ちた表情でそう言い切ると、健は一瞬驚いた表情を浮かべたあと、ゆっくりとほほ笑む。


「ありがとう、ヒヨリ。これで私も決心がつきました」

「え?」


 一体どういうことだろうか。ヒヨリがその言葉の意味を探ろうとしていると、健は軽々とその答えを口にした。


「文月家を継ぐ決意をね」


 健の言葉を聞いて、ヒヨリは急に熱が冷めていくのがわかった。
 栄西から、家督を継いでほしいと再三のお願いをされてきただろう。
 それにはきっと村岡との縁組も含まれている。
 健はその話も栄西から聞いていたはずだ。

 となれば、文月家を継ぐ決意を固めた、イコール美沙子との結婚も決意したということなんだろうか。
 震える体をなんとか維持し、健にばれないように必死で抑える。


「……それは、美紗子さんとの結婚も含まれてる?」


 恐々と言うヒヨリに、健はあっけにとられたあと、大声で笑った。


「なにを言い出すかと思えば。言ったでしょう、美紗子とはそんな関係ではないと」

「でも、美紗子さんは!」

「確かに彼女は今ごろになって変なことを言い出しましたけどね。でも、私にはそんな気持ちはこれっぽっちもない。そうヒヨリに言ったはずですよ?」


 おかしなことを言う、と健は再び笑いだした。
 しかし、ヒヨリには解せなかった。
 健が握っていた右手を、今度はヒヨリがギュッと握り返した。








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