執事ちゃんの恋





「ヒナタ。健くんはね、美しいものや人をみると絵を描きたくなるのよねー。でも、あれ? 健くんは女の人の裸体は描かないんだっけ?」


 ハテ? と首を傾げるコウに健は満面の笑みを向ける。

「いいえ、最近描きましたよ」

「えー? なにそれ。どこのだれ? そのスケッチ見てみたいっ!」


 おねだりをするコウを窘めるように、健は軽く首を振る。


「コウに頼まれてもダメですね。こっそりと一人で楽しむんです」

「うわー、ムッツリ」

「なんとでも」


 コウの言うことなど取り合わないという態度の健に、むくれたのはコウだ。

 しかし、誰を描いたのか気になるのか。

 コウは健に食い下がる。


「どんな人なの?」


 コウの質問に、健は少しだけ意味深な笑みを浮かべるとその人物を思い出しているような表情を浮かべた。


「美しいひと……ですよ」

「えー? 意味深。もしかしてついに結婚しちゃうの?」

「しようと思っていますよ」

「きゃー! おめでとう、健くん」

「ふふ」


 意味深に軽やかに笑ったあと、健はチラリとヒヨリの顔を見た。

 その視線の意味に気がつかず、ヒヨリはさきほどのコウと健の会話の内容で頭がいっぱいだ。



 ――― 誰のこと? 健先生にフィアンセ……。私じゃないことは、確かだよね? 



 ヒヨリの胸はチクチクと痛む。

 思わず泣き出してしまいたくなるほどの痛さだ。

 しかし、今はコウの執事。ヒナタの代役。


 こんなところで仕事を放置して、女になんてなれない。

 ヒヨリは、グッと奥歯を噛み締めた。


 ――― だって、裸体だなんて……描いてもらってない。私じゃ……ない。


 絶望に近い気持ちで、ヒヨリは唇を噛み締めるしかできなかった。




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