冬が、きた。
「ただいまー」
「あっ、おかえり!」
慎くんが帰ってきた。
時計を見ると、夜の10時半。
「……なんか良い匂いがする」
「お鍋作って待ってたの!一緒に食べよう」
「えっ、待っててくれたの?」
慎くんは少し驚いたような顔をして、マフラーを外す手を一瞬止めた。
「ごめん、こんな遅くまで」
「いや、いいよそんなの」
申し訳なさそうな顔をする慎くんに、にこっと笑いかける。
………こういう時は、ありがとうの方が、嬉しいけどな。
でも、すぐに気を取り直して、慎くんに鍋の中身をよそってあげる。
私はふと、朝のバイクの一件を思い出した。
「そういや、慎くん、今日バイク乗ってったの?」
「えっ?」
「買い物行く時に、バイクが無かったから。珍しいなあと思って」
「あ、ああ………。うん……ちょっと、ね」
「一回ここに戻って来てたの?」
「えっ?あ、それは………その、友達に、貸してて……」
「ああ、そうだったの」
………なんとなく、慎くんの反応が怪しい気もしたが、このバイクの一件が、そんなに気にするような事とは思えなかったので、これ以上は詮索しなかった。