冬が、きた。
「あれっ、野々山くん、何してるの?」
さっき指示を出していた女の人が、客席の陰からひょっこり出てきた私達に気づいた。
「………なんでもないよ」
慎くんは少し不機嫌そうに返事をする。
「………すぐ、戻るから」
そう言って、慎くんが私の手を引いてホールを出ようとすると。
「ああ、だめだめ!楽器が片付けの邪魔になるでしょ!せめてサックス持って行ってよ」
「…………はい………」
慎くんが疲れたように舞台に向かう。
その後ろ姿を、笑いそうになりながら見ていると、女の人が私に近づいてきた。
「………ねえ、もしかして、野々山くんの彼女さん?」
「え……は、はい」
私が頷くと、彼女はニヤッと笑った。
「やっぱり、あなたが原因だったのね?」
「…………?」
「野々山くん、1週間ほど、廃人みたいになってたのよねー。『僕はもう何を糧にして生きれば良いのか分からない』とかって、意味わかんないこと言ってたし」
「ええっ……」
「でも急に、『コンサート失敗したら僕はもう終わりだ』って言い出して。死ぬほど練習頑張ったのよ。……きっと、あなたに良いところを見せたかったのね」