お腹が空きました。



会社で独り言なんて言わない方がいい。




ほとんど誰もいないオフィスで、狼みたいな鋭い瞳が紗耶の背後からギロリと現れて、獲物を捕らえる。


ドサッと机の上に追加されたオシゴトに紗耶は眩暈がした。


「そんなぁ~。」


鬼がいる。鬼が。


「今日のお前には相応しい量だと思うが。」


涼しい顔して杉崎は半泣きの紗耶を見下ろす。


確かにこれぐらいの罰があってもいいぐらい、今日の紗耶は役立たずだった。


もうちょっとで帰れたはずなのに、この量だと後一時間はかかりそう…。



「なんだ。文句があるなら言って見ろ。」


「いえ…。」


不服はあるが、文句はない。

紗耶は諦めてパソコンに目を移した。

それよりも彼には一刻も早くこの場を立ち去って欲しい。



「…どうした。今日はやけに従順だな。」

いつもの紗耶らしからぬ大人しさに、杉崎は一歩近づきながら首を捻った。

「…っ。」


またあの香りが鼻をかすめる。



だから…っ!!

今は近づかないで欲しいのに!!






< 14 / 324 >

この作品をシェア

pagetop