お腹が空きました。
会社で独り言なんて言わない方がいい。
ほとんど誰もいないオフィスで、狼みたいな鋭い瞳が紗耶の背後からギロリと現れて、獲物を捕らえる。
ドサッと机の上に追加されたオシゴトに紗耶は眩暈がした。
「そんなぁ~。」
鬼がいる。鬼が。
「今日のお前には相応しい量だと思うが。」
涼しい顔して杉崎は半泣きの紗耶を見下ろす。
確かにこれぐらいの罰があってもいいぐらい、今日の紗耶は役立たずだった。
もうちょっとで帰れたはずなのに、この量だと後一時間はかかりそう…。
「なんだ。文句があるなら言って見ろ。」
「いえ…。」
不服はあるが、文句はない。
紗耶は諦めてパソコンに目を移した。
それよりも彼には一刻も早くこの場を立ち去って欲しい。
「…どうした。今日はやけに従順だな。」
いつもの紗耶らしからぬ大人しさに、杉崎は一歩近づきながら首を捻った。
「…っ。」
またあの香りが鼻をかすめる。
だから…っ!!
今は近づかないで欲しいのに!!