お腹が空きました。



クンクン…


目を閉じて鼻に集中するとよく分かる。


「気のせいなんかじゃないですよ。今もフワンと香ってます。」


「マジかよ…。なぁ、それは今日だけか?」


何故か焦っている杉崎に首をひねりつつ紗耶はあっけらかんと答えた。



「いーえ?5日前はガトーショコラの香りがしてたし、二週間前は確かカスタードとシュー生地の香りがしてました。」


「……………。」


それだけ聞くと杉崎は眉にシワを寄せたまま絶句した。


黙り込む杉崎に紗耶はおどおどしながら体を斜めにして狼を覗き込む。


「……杉崎…さん?」


「…。」


「…。」


怖い顔。本当にこの人27歳なんだろうか。

比較的若い人が多い小さな会社だけど、任されてる仕事も多いし、自分にも他人にも厳しいし、30越えてると言われても違和感ない。

若く感じるとしたら、その全体的に少し長めの髪をワックスでゆるく後ろに流しているぐらいだ。


「…その事、誰にも喋ってないよな?」


「へ?」








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