お腹が空きました。
「これだ、これっ。」
半分ヤケになりながら杉崎は絞ったばかりのフキンでキュッキュッキュッキュッとキッチンを拭く。
「こんな顏の男が女よりこういうのしっかりしてたら、なんか嫌なんだろっ。」
「え?そんな事言われたんですか?」
う、と動きを止める杉崎を紗耶は目を丸くして覗き込んだ。
当時を思い出したのか、少し傷付いたような表情をする彼を見て、紗耶は困ったように微笑む。
「大丈夫ですよ。全然嫌じゃないですよ。」
両手で軽くポンポンと杉崎の背中を叩きながら紗耶はカラカラと笑った。
「むしろ尊敬してるぐらいですよ。杉崎さんはただ好きなものを大事にしてるだけです。ね?」
そういって紗耶はそそそそ、と昨日見つけた直してある植木鉢を持って杉崎の前で笑ってみせた。
「愛情、感じません?」
接着剤で丁寧に直された部分を指差し、紗耶は「あっ、」と声を出す。
「…。」
「それにそれに!これなんかも!」
ちょこまかと部屋の中を跳ね、紗耶は高い位置にある窓の縁に置かれた小さな銀色の立て時計を指差した。
「この時計なんかもピカピカですけど、この隅っこに色々文字書かれてるのって…。これって小学校の作文の優勝記念品なんですよね?結構前に発見してたんですよー。」
物持ちが良いというかなんというか。
普通こういう記念品を飾ってあったら違和感を生むものだが、時計がシンプルだった事も手伝って、このおしゃれで洗練された空間に不思議と合っている。
「こっちのこういう小物と合わせて飾ると一気にハイセンスなものに見えるというか。うん。杉崎さんやっぱりセンスいいです。飾り方上手い。」
途中で何が言いたかったのか分からなくなって来た紗耶はただ某然と固まって居る杉崎にクルリと顔を向け、パチンと手を鳴らした。
「とにかくですね、私は杉崎さんのそういう所は、凄く良いと思ってます。だからそんな顔に似合わないなんて気にせず…ぬわっ」
突然大きな狼に抱き締められた紗耶は、身体を仰け反らせた体勢のまま目を白黒させた。
「………杉崎さん?」