お腹が空きました。



紗耶は手にカチャリと転がる金属製の鍵に視線を注ぐ。


「それ、持ってていいぞ。」


これって…

「電車での行き方、知ってるか?」


紗耶は目をキラキラさせながら杉崎を見上げた。

嬉しさを隠し切れない紗耶の瞳から逃れるように、うっ、と杉崎は資料を探すフリをしてくるりと背中を向ける。

こちらからは表情は確認出来ないが、

耳が赤い。


そんな杉崎の広い背中に、紗耶は思わずトスンと頬を寄せた。

嬉しい。

どうしよう。



本当、嬉しい。



「これ、いつまで持ってていいですか?」

紗耶はうへへへと柔らかく微笑みながら手の中の金属をカチャリと鳴らす。

「…知らねぇ。気が済むまで持ってたらいいんじゃねえか?」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。」

「おー。好きにしろ。」

紗耶は照れてるらしい背中に、そっと腕を回した。


杉崎の匂いに安心して目を閉じる。


「大事にします。」

「…おー。」

「杉崎さん。」

「…。」

「大好きです。」





「…ーっ!あーもう、なんなんだお前は。」


杉崎はそう言うか言わないかでグルリと態勢を変え、正面から紗耶の腰に両腕を回し力強く抱き締めた。





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