お腹が空きました。
「す、杉崎さん…重…っ」
ぎゅー、と上からの体重に紗耶は足元がフラつく。
そんなのお構いなしに杉崎は紗耶の首筋に鼻をうずめた。
鬼軍曹、ご乱心である。
珍しく中々離れない杉崎に、紗耶は混乱半分、嬉しさ半分で尋ねる。
「どうしたんですか?杉崎さん。」
セットしてある少しマットな髪に手を差し込み、紗耶はよしよしと撫でた。
「んー、充電?」
杉崎はもう一度ぎゅっと腕に力を込め、そしてそっと紗耶を解放する。
「残業、頑張って下さいね。」
「ん。」
「のんびり待ってますから。」
「…出来るだけ早く帰るようにする。」
そう言って杉崎は紗耶の頭にポンと左手を置き、資料を持って出て行った。
紗耶はもう一度手の中の鍵を見つめる。
「へへへ。」
ニヤニヤ顔を一生懸命引っ込めて、紗耶もしばらくしてから資料室をそっと後にした。