お腹が空きました。
ズズズーとスープを飲み干しながら静かに見つめる杉崎に、紗耶は複雑そうな顔をする。
「…レパートリーっつっても、あれか。パッと出てこねぇわな。じゃあ、昨日の晩は何食ったんだ?」
「…。」
「……?」
「怒りません?」
「あ?何をどう怒るんだよ?」
「絶対怒りません?」
「あーわかったわかった。怒んねぇ怒んねぇ。」
体を縮めながら紗耶はおずおずと口を開いた。
「…パンに、」
「…パンに?」
「マヨネーズかけた奴……。」
「…⁈」
ピシッと音を立てて凍る杉崎に紗耶はやけを起こしながら言い訳を並べる。
「だって!だって!給料日前ですし!パン美味しいですし!マヨネーズも美味しいですし!簡単ですし!」
「…。」
「お母さんには家で特別美味しかった料理に2.3種類しか教わってなくて、レパートリーっていうほど種類はないといいますか!でもパンについてのレパートリーはいっぱいあります!
マヨネーズをしいたパンの上にネギ散らして七味かけてチンした奴とか、
バター塗って砂糖かけてチンした奴とか、
マヨネーズとたらことか、
トマトと薄切りピーマンと薄切り玉ねぎの上にマヨネーズとケチャップかけてチーズ乗っけて焼いた奴とか!
板チョコ乗っけてチンしたあとにバナナの輪切り乗っけた奴とか!
アイス乗っけてチョコソースかけてイチゴのスライス乗っけた奴とか!
バターと醤油かけて焼いた奴とか!!
それからそれからっ」
「分かった、分かった、ストップ。」
だんだん握りこぶしが出て来て目がキラキラしてきた紗耶を、杉崎は手のひらを突き出していったん止めた。