お腹が空きました。

ハッと我に返り、紗耶はしゅんとしながら席に座り直す。


「…まぁ、そういう事で、自炊といえば自炊ですが、そんなんは料理じゃねーと言われれば料理ではないし、簡単にいうと、きちんとした料理はあんまり作ったことありません!」

「…。」

いずれバレるなら、もう諦めて白状した方がいい。


すいません!と泣きそうな顔をする紗耶に、杉崎は困った顔をしてクスリと笑った。

彼は、出来る男だ。

仕事もさるごとながら、私生活まで。

その位置までこんなぐうたらな自分が届かないのは百も承知だが、やっぱり、ちょっとは手を伸ばして近づきたかった、のかもしれない。

しかし手を上に伸ばせば伸ばすほど、改めてその遠さを実感してしまうなんて、皮肉だ。

「…うぅー…」

「別にそんな事で怒んねえよ。」

アホらし、と杉崎はカラになった器を紗耶に突き出す。

紗耶はまだ下を向いたままだ。

「今日はさ、頑張ってくれたんだろ?」

ぽてりと優しい声が降る。

「…はい、見栄を張りました…。」

杉崎は長い腕を伸ばし、紗耶の頭をぽんぽんと撫でた。

「うまかった。おかわり、あるか?」

「…っ…はい!」

紗耶は満面の笑みで器を受け取ってキッチンに走る。

「…。」


そんな後ろ姿を見つめながら杉崎は左に頭を傾け、手で頬を支えた。

紗耶はおたまを持ってデカい水餃子をすくいながら嬉しそうに器にそそぐ。

…飛びだったと思ったら、何故かまたぴょこぴょこ歩いて自分の方へ寄ってくるヒナを想像し、杉崎はまたクスクス笑った。

< 260 / 324 >

この作品をシェア

pagetop