お腹が空きました。




「…ん?」

二人並んで食器を洗いながら杉崎がキッチンをキョロキョロと見回す。

そして食器カゴの中にタッパが二つ入っているのを確認し、視線を紗耶に戻した。

「紗耶、もしかして一回家に帰ったのか?」

「え?あ、はい。ここ来たの、実は9時くらいです。」

あははと笑いながら紗耶は水で器についた泡を落とす。

「家で皮を練って、具も刻んで、包んでから来ましたーあははー。褒めて下さいー。」

「…泡だらけになるぞ。」

なでてなでて。

そうやって冗談で自分の頭を杉崎の方に傾ける紗耶に、杉崎は真顔でそう言い放った。

「やーー、皮作る時結構粉飛ぶんですよね。野菜も粉々に刻むんで、予想外な所に跳んでたり。私がこの前作った時は冷蔵庫の扉に白菜のかけらがひっついてましたよ。」

箸をすすぎながら紗耶は思い出すように語る。

「別にここで作りゃあいいのに。」

仕事帰りに材料を買い、いったん自宅に帰り、下ごしらえをしてまたまた電車に乗り、ここまでやってきた紗耶の行動を想像し、杉崎は複雑そうに眉をひそめた。

「え?いいんですか?」

「いいんですか、って、どういう意味だよ。」

目を丸くする紗耶に杉崎は不可解そうに眉間のシワを増やす。



「…やぁ、だって“一人目の彼女は家に招いた初日に、手作り料理でキッチン汚しまくられて別れた”んですよね?」

「…‼︎」

杉崎はグワっと顔をこわばらせて大鍋を洗う手を止めた。

牛野にいつぞや耳打ちしてもらった元カノ談を固まる杉崎などお構いなしに紗耶は並べる。


「それで、その事を踏まえて“二人目は家に上げなかったから不振がられて振られ”て、“三人目は綺麗好きを隠して付き合って、最後にストレス爆発して別れた”んですよね?」

「…牛野、明日締める。」

ドス黒いオーラを放ちながら杉崎はぐわしっぐわしっと鍋の底をこすり始めた。


< 261 / 324 >

この作品をシェア

pagetop