お腹が空きました。


「…うーわーー…抑止力がいなくなるということは…アレが放し飼い状態になるのかぁ。大丈夫なのかな…。」

辻の言葉が聞こえたのか、由美がげんなりした表情をしながら、ボソッとそんな事を呟く。

アレって、あの人か、ハハッと紗耶も苦笑いした。

いや、そんなことより…

だいたい引き継ぎが終わっているということは、当然杉崎も知っていたということ。

…。

いや、杉崎さんなら言わないか、と紗耶はもう一度杉崎を見上げる。

ちょっとさみしいけど、そういう所は本当にしっかりしている。

正式発表まで機密事項だしね。


うん。


…。


…ううん、やっぱりちょっとじゃないかも。

結構な衝撃くらうぐらい、教えてもらっていなかったことがさみしい。


でも…。

でもなぁ。

そういうところがまた杉崎さんっぽいしなぁ。


紗耶の心は天秤に貼り付けられたように、不満と尊敬の間を行ったり来たりした。

「正式な移動発表はまとめて再来週、全社朝礼であるから、あんまり他言しないように。以上。」

部長はそう言い渡すと、きりりと表情を変え、杉崎達を連れてオフィスを出て行く。

残された紗耶達は、最後に大まかな指示を中間と野上から受け、それぞれのディスクに戻って行った。

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