お腹が空きました。
◆
「すまん。」
窓から流れる夜景を見ながら、紗耶は車のドアに持たれ、謝罪をゆるりと聞き流す。
「……。」
「……。」
「……ほんと、すま…」
「…特に怒ってはないんですよ。」
紗耶は瞼を半分下げながら窓に、はぁーと息をかけ、ガラスを白く曇らせた。
「上の人から口止めされていたと分かってますし、杉崎さんの世代はちょうど移動の人が多いっていうのも聞いてましたし。」
キュッ、キュッ、と曇ったガラスに可愛くデフォルトされた杉崎の似顔絵を描きながら、紗耶は唇を軽くとんがらせる。
「いや、ほんと、別にいいんですけどね。」
「……あーもう、悪かったって…。」
…あ、これちょっと上手く描けた気がする。
このギンッと鋭い目とか。
クスっと紗耶は表情を崩しくるりと改めて杉崎に向き直った。
「ちょっと寂しかっただけです。へそ曲げてすいません。」
「…。」
「そういえば、杉崎さんはどこに移…、」
「紗耶、寂しいのか。」
妙に車内に響いた杉崎の声に、紗耶はキョトンと答える。
「え、そりゃあ、そうです。」
目を丸くする紗耶に、杉崎は前を見つめながら静かに言った。
「…俺は、ちょっとほっとしてる。」