お腹が空きました。


「あ、杉崎さんっ!また携帯忘れてますよ!」

「ああ、悪い。」

杉崎は振り返って紗耶から自分の携帯を受け取る。

それをジーンズに押し込み、靴を履いた。

「杉崎さんって仕事の日以外は本当携帯持ちたがらないですよね。」

紗耶は不思議そうに杉崎の後を追いかける。

ムートンブーツをぽこぽこ鳴らす紗耶を待ち、杉崎はガチャンと後ろ手で戸締りをした。

日曜日。

紗耶が楽しみにしていたお出かけの日である。

「…仕方ねぇだろ。」

「分かってますよ、機械系あんまり好きじゃないんですよね。」

不貞腐れたような杉崎の袖を軽く持ち、紗耶はクスクスからかうように笑った。

日々の生活の中で紗耶は身にしみて納得している。

杉崎は機械音痴だ。

録画設定をめちゃくちゃにする。

パソコンの設定をわけがわからないようにする。

携帯もエアコンも電子時計も以下略。

本当に何かしら表示機能のあるもの全て、苦手のようだ。

必要最低限、仕事に関わる部類には大丈夫なようだが。

「…そんな感じでよく係長に…、」

「色々失敗して、仕事の機械類についてはコツを掴んだ。」

「コツ?」

「冒険しないことだ。」


ニヤリと笑う杉崎に、あー、なるほどと紗耶は微妙な顔をしながら何度も頷いた。

今までのも、一度間違ったボタンを押してしまうとまた慌てて違うボタンを押し、負のスパイラルに巻き込まれて行くような壊し方をしていた。



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